■防衛省が令和6年度概算要求公表
8月31日,防衛省は令和6年度(2024年度)の業務計画案と概算要求を決定し,財務省に提出した。防衛関係費の総額は7兆7,385億円で,現時点では前年度比約17.2パーセントの増額である。
新たに要求された海上自衛隊の艦艇は以下のとおりで,計7隻である。
▷イージス・システム搭載艦(艦種記号未公表) 2隻
▷4,500トン型護衛艦(FFM) 2隻
▷3,000トン型潜水艦(SS) 1隻
▷14,500トン型補給艦(AOE) 1隻
▷690トン型掃海艦(MSO) 1隻
イージス・システム搭載艦は, SPY-7多機能レーダー搭載の新型艦で,要求額は2隻で3,797億円(今年度要求分。過年度計上分を合わせた建造費は2隻で計約7,900億円〈1隻約3,950億円〉)。ほかに関連経費約1,100億円を計上している。基準排水量約12,000トン,全長約190メートル,幅約25メートル。1番艦は令和9年度末,2番艦は令和10年度末に就役予定。
4,500トン型護衛艦は,いわゆる「新型FFM」で,イルミネーターを備えた多機能レーダーや長射程ミサイル(12式地対艦誘導弾能力向上型〈艦発型〉,新艦対空誘導弾)の搭載,多機能ソナー等の装備による対潜戦機能の強化など,各種海上作戦能力が向上した艦である。要求額は2隻で1,747億円(1隻873.5億円)。2隻とも令和10年度中に就役の予定
3,000トン型潜水艦は,“たいげい”型の8番艦である。要求額は951億円。
14,500トン型補給艦は,補給艦“とわだ”の代艦として整備される新型である。船体が大型化し,燃料などの補給能力の強化,サイド・ランプを装備して車両搭載能力の付加,艦内の貨物移送装置の自動化などによる省人化などが図られる。要求額は825億円。令和10年度中に就役の予定。
690トン型掃海艦は“あわじ”型掃海艦の6番艦で,要求額は262億円。
就役中の自衛艦の艦齢延伸化費用として,“こんごう”型護衛艦(部品取得2隻)に9億円,“むらさめ”型護衛艦(工事2隻,部品取得4隻)に174億円,“おおすみ”型輸送艦(部品取得1隻)に42億円,練習艦“かしま”(工事)に14億円,試験艦“あすか”(工事)に15億円,潜水艦(工事8隻,部品取得3隻)に33億円が要求されている。
海上自衛隊の航空機の新規要求は以下のとおり。
▷P-1哨戒機 3機
▷SH-60L(仮称)哨戒ヘリコプター 6機
▷T-5練習機 2機
各航空機の取得のため,P-1には計1,039億円,SH-60Lには計669億円,T-5には計22億円が要求されている。機齢延伸化費用として,P-3C哨戒機1機に8億円,SH-60K哨戒ヘリコプター2機に11億円が要求された。能力向上費用として,P-1哨戒機5機のレーダー能力向上,光波装置能力向上,通信・識別能力向上,音響能力(マルチスタティック対潜戦対応)向上,戦闘指揮システム処理能力向上に334億円,UP-3D多用機1機に39億円が要求されている。
そのほか,海自関連の要求事項として以下のようなものが挙げられる。
▷既存イージス護衛艦へのトマホーク巡航ミサイル発射機能の付加に2億円。
▷12式地対艦誘導弾能力向上型(艦発型)装備化のための機材調達に6億円。
▷弾道ミサイル防衛用誘導弾(SM-3ブロックIIA)の整備に653億円。
▷イージス艦の防空能力向上のための調査研究に25億円。
▷無人水上航走体(USV)供試機材の試験的運用に160億円。
▷海洋観測用無人水中航走体の調査研究等に2億円。
▷衛星通信システムの抗堪性向上に106億円。
▷ソノブイの整備(マルチスタティック対潜戦対応)に106億円。
▷“むらさめ”型および“たかなみ”型護衛艦の対潜システムの改修に194億円。
▷“いずも”型護衛艦の改修(“いずも”の艦首矩形化等)に423億円。
▷海上自衛隊指揮統制・共通基盤システム用機材の整備に136億円。
▷戦術データリンク(リンク16,22)の整備に56億円。
▷各種弾薬(17式艦対艦誘導弾,哨戒機用空対艦誘導弾,新艦対空誘導弾など)に1,517億円。
▷装備品の可動率向上に3,823億円。
▷港湾施設の整備(大湊地区,崎辺東地区)に257億円。
▷艦艇乗員の家族等の通信手段の構築に3億円。
▷イージス艦乗員の技能向上と負担軽減のための仮想訓練環境の整備に約73億円。
▷潜水艦用襲撃訓練装置(たいげい型)の整備に30億円。
▷海上保安庁との情報共有システムの整備に10億円。
▷海上保安庁との通信機能の強化に0.9億円。
▷戦闘支援型多目的USVの研究に245億円。
▷海上自衛隊地方隊の改編(大湊地方隊を改編し,横須賀地方隊と統合)。
このほか,共同の部隊,統合幕僚監部,陸上自衛隊,航空自衛隊の注目すべき要求事項は以下のとおり。
共同の部隊として「自衛隊海上輸送群(仮称)」を新編する。新編時期は令和6年度末で,当初の部隊の規模は人員約100名,中型級船舶(LSV)1隻,小型級船舶(LCU)1隻。
統合幕僚監部は,民間輸送力活用事業に325億円。令和7年12月に“はくおう”とナッチャンWorldの契約が終了するため,これらに代わる新たなPFI船舶2隻の契約を行なう。
陸上自衛隊は機動舟艇3隻の取得に173億円。南西諸島部などに部隊や物資を迅速に輸送するための舟艇で,全長約35メートル,搭載重量約60トン程度。これらは自衛隊海上輸送群(仮称)に配備予定。
航空自衛隊はF-35B STOVL戦闘機7機の取得に1,256億円。令和6年12月に「臨時F-35B飛行隊(仮称)」新編,F-35B初号機を同部隊に令和7年3月に配備予定。F-35AおよびF-35B受入施設整備(馬毛島に艦艇模擬施設の整備等)に264億円。