■海上自衛隊の令和7年度概算要求

 8月30日,政府は令和7年度(2025年度)予算編成に向けた各省庁からの概算要求を締切り,その総額は過去最大の117兆円あまりに達した。

 このうち防衛関係費は,対前年度比10.5パーセント増の8兆5,389億円で,内訳は人件・糧食費2兆2,728億円,物件費6兆2,661億円(歳出化経費4兆4,527億円,一般物件費1兆8,134億円)である。令和7年度は「国家防衛戦略(令和4年12月16日閣議決定)」に基づく防衛力の抜本的強化を目的とする「防衛力整備計画」の3年度目に当たる。同計画により政府は,令和5〜9年度の5年間におよそ43兆円の防衛費の計上を計画しており,すでに5年度で補正予算を含め6兆6,001億円,6年度で7兆7,249億円が歳出されており,残る8,9年度では合計で約20兆円の歳出が予定される。

 現時点で判明している海上自衛隊の新造要求艦艇は,以下の2タイプ4隻である。

 ▷4,800トン型護衛艦(FFM) 3隻

 ▷3,000トン型潜水艦(SS) 1隻

 4,800トン型護衛艦は,令和6年度で1,2番艦の調達が進められている改“もがみ”型FFMの3,4,5番艦である。要求額は3隻で3,140億円。1隻当たりの建造費はついに1千億円を超える1,047億円となり,これは“あさひ”型DD1番艦の701億円を300億円以上上回り,“こんごう”型イージスDDG1番艦の1,223億円に迫る金額となっている。

 なお,7年度計画では4,800トン型護衛艦が搭載するA-SAMこと23式艦対空誘導弾(343億円)の調達と,本型ならびにイージス・システム搭載艦(後述)が将来搭載するスタンド・オフ・ミサイルである12式地対艦誘導弾(12SSM)能力向上型(艦発型)の取得(170億円),量産着手が計画されている。ちなみに12SSM能力向上型は基本となる地発型の配備が,当初の8年度から1年前倒しとなり7年度中に予定される。

 3,000トン型潜水艦は“たいげい”型の9番艦である。要求額は1,161億円と,6年度計画による8番艦よりも210億円の増額となっている。

 ほかに7年度概算要求には,6年度計画で整備を進めているイージス・システム搭載艦2隻の関連経費として,実射試験を含む各種試験の準備等にかかる経費808億円が計上されている。

 また航空自衛隊のF-35B戦闘機の搭載化を進めている “いずも”型護衛艦の1番艦用に,第2次改修に向けて電源監視制御盤などの費用として18億円を要求している(2番艦改修にかかる7年度の要求はなし)。

 現時点で判明している海上自衛隊の航空機の新規要求は以下のとおり。

 ▷P-1哨戒機 2機

 ▷SH-60L哨戒ヘリコプター 2機

 ▷US-2救難飛行艇 1機

 P-1の取得に2機分842億円,SH-60Lの取得に2機分293億円が計上されている。US-2はかつて令和6年度と7年度に1機ずつの整備が計画されていたが,一度は高額な取得費用のため整備中止が伝えられていた。その後,わが国を取り巻く各種状況等を再検討した結果,7年度概算要求において219億円で盛り込まれることとなった。

 7年度概算要求には,このほか海自に関連する事項として以下が存在している。

 ▷トマホークの取得1年前倒し(8年度→7年度)

 ▷12SSM能力向上型(地発型・艦発型・空発型)の開発(62億円)

 ▷12SSM能力向上型(地発型・艦発型・空発型) について開発を継続(発射試験等に係る経費を計上)

 ▷スタンド・オフ・ミサイルである潜水艦発射型誘導弾の開発(22億円)

 ▷潜水艦発射型誘導弾について開発を継続(性能確認試験に係る経費を計上)

 ▷潜水艦発射型誘導弾の取得(30億円)

 ▷迎撃用誘導弾であるSM-3ブロックIIA誘導弾(689億円),SM-6誘導弾(218億円)の整備

 ▷“こんごう”型イージス護衛艦の除籍に伴う後継艦検討のためのイージス艦に関する調査研究(33億円)

 ▷FCネットワークの整備(8億円)

 ▷艦載型UAV(小型)の取得(37億円)

 ▷長期運用型UUVの研究(14億円)

 ▷商用低軌道衛星通信器材等の整備(6億円)

 ▷23式空対艦誘導弾の取得(163億円)

 ▷水中発射型垂直発射装置の研究(300億円)

 ▷艦載用レーザー・システムの研究(191億円)

 ▷乗員待機所拡充など艦艇乗員の生活・勤務環境の改善に関する調査研究等(0.4億円)

 ▷艦艇の通信環境の改善(4億円)

 ▷佐世保(崎辺東地区〈仮称〉)に係る施設整備(360億円)

 ▷呉地区における多機能な複合防衛拠点の整備(5億円)

 ▷哨戒艦の教育カリキュラムおよび教材作成等への部外(OBや民間)力導入(2億円)

 これらのほか海上自衛隊の組織改編として,護衛艦隊,掃海隊群等の水上艦艇部隊を一元的に指揮監督する体制を整備するため,自衛艦隊隷下の護衛艦隊(および隷下の第1,2,3,4護衛隊群,第11,12,13,14,15護衛隊)と,掃海隊群を廃止し,水上艦隊(仮称)を新編する。水上艦隊(仮称)の隷下に第1,2,3水上戦群(仮称),水陸両用戦機雷戦群(仮称),哨戒防備群(仮称)を新編する。

 また,情報に関する諸機能・能力を有する海上自衛隊の部隊を整理・集約するため,自衛艦隊隷下の艦隊情報群,海洋業務対潜支援群,防衛大臣直轄のシステム通信隊群を廃止し,防衛大臣直轄の情報作戦集団(仮称)を新編する。情報作戦集団(仮称)の隷下に,作戦情報群(仮称)と,サイバー防護群(仮称)を新編する。警備所を地方隊の隷下から作戦情報群(仮称)の隷下に改める。

 また令和7年度概算要求では,6年度末に三自衛隊共同の部隊として新編される自衛隊海上輸送群(仮称)向けに中型級船舶(LSV)1隻(80億円),小型級船舶(LCU)1隻(64億円),機動舟艇1隻(58億円)を取得する(いずれも9年度引渡し予定)。なお,自衛隊海上輸送群(仮称)は,9年度末の段階でLSV2隻,LCU4隻,機動舟艇4隻の計10隻を保有し,有事の南西諸島方面等における機動展開や国民保護等に従事することになる。

 さらに令和7年度概算要求では,PFI方式による民間船舶の輸送体制を現状の2隻から8隻に拡充するため,増勢分の6隻の公募,契約費用として509億円が計上されている。この8隻体制は8年度から段階的に構築を開始し,本格的な運用開始は10年度を予定している。